「ルーズベルトの責任 〔日米戦争はなぜ始まったか〕」(上)(下)チャールズ・A・ビーアド著、開米潤、阿部直哉、丸茂恭子共訳、藤原書店、各2011年12月、2012年1月発行、各¥4,410(税込み)



著者は1874年米国インディアナ州生まれ(~1948年)。大学教授を経て、ニューヨーク市政調査会理事、米国政治学会会長、米国歴史協会会長を歴任。本書は太平洋戦争直後(1948年4月)に出版されている。監訳者は1957年福島県いわき市生まれ、東京外国語大学卒業後、共同通信社記者などを経て、ジャーナリスト。
著者は1922年、東京市長、後藤新平の招請で来日し、「東京市政論」を発表している。1923年の関東大震災直後にも来日、東京の復興に関する意見書を提出し、「帝都復興の恩人」とされている。戦後の日本の都市計画にも示唆を与えた。
本書は、太平洋戦争の公式の最初の一撃となった日本軍による真珠湾攻撃が、フランクリン・ルーズベルト大統領を中心としたアメリカ政府の対日政策にも責任があり、ルーズベルト大統領には事前に(真珠湾)攻撃を予測できるだけのデータが報告されていたということを、膨大な公文書に基づいて実証しようとしたものである。出版当時、日支事変の史実や“ヴェノナ”で暴露された米国政府内の共産主義勢力の実態など、現在ほどには各種の史実が公にされてはおらず、ラルフ・タウンゼントやF.V.ウィリアムズ、R.F.ジョンストン(「紫禁城の黄昏」)の著作などはすでに発表されてはいたものの、多くの知識人を含む一般のアメリカ人が持っていた対日観が描かれているのも一つの特徴である。当時のアメリカ人の大半の日本観は、シナのプロパガンダを真に受けた、史実とは程遠いものだったと言える。逆に言えば、日本政府の対米宣伝力の弱さが、アメリカをシナ(蒋介石政府)寄りにした一因だったとも言えるのではないか。
本書は(上)(下)巻で800ページ近い大著であり、内容の主旨だけを理解するのであれば、(下)巻の第Ⅲ部(真珠湾資料に記された実態)と第Ⅳ部(エピローグ)、および監訳者あとがき、解説などを読めば足りる。
著者の最大の主張は、ルーズベルト政権が武器貸与法の成立を手始めとして、大統領に専制権力があるかのようにして第二次世界大戦に参戦していったやり方は、アメリカ合衆国憲法の大統領権限の制約に反しているという点にあり、アメリカ国内の問題とはいえ、以後の世界におけるアメリカの行動を予測していたように思える。
全体を通して本書の内容から筆者が受けた印象は、登場人物(アメリカの指導層)の多くが人間としての道義も品格もない、精神的・文化的にいかにも貧しい下劣な人種の集まりだということである。これが今も変わらぬアメリカの本質なのだろうか。

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