<慰安婦> 情報戦争の真実 ――反日ファシストたちの情報ロンダリング 西村幸祐  2012年暮れから、誕生したばかりの第二次安倍政権を、一部欧米メディアが口汚く非難し始めた。まず真っ先に、首相就任後の12月27日にNYタイムズがWEB版に、マーティン・ファクラー東京支局長の「Japan Hints It May Revise an Apology on Sex Slaves」(http://www.nytimes.com/2012/12/28/world/asia/japan-might-revise-apology-on-wartime-sex-slaves.html)という記事を掲載した。この記事は本紙に28日に掲載されたが、非常に雑な論考で日本では歴史学分野からも一笑にふされるようなことが書き連ねられている。  おまけに、ご丁寧に1月1日の紙面には、2007年の下院でヒアリングを受けたオランダ人女性の証言を取り上げ、特殊な例から慰安婦問題の全体像にすり替える学者としてあるまじきMary M. McCarthyの「Japan Can Champion Women’s Rights」という論説を掲載した。さらに、1月3日のWEB版、1月4日の本紙に「Another Attempt to Deny Japan’s History」(http://www.nytimes.com/2013/01/03/opinion/another-attempt-to-deny-japans-history.html)という日本人を差別的に論じる知性のかけらもない社説を掲載して、口汚く安倍総理を罵ったのである。  また、ワシントンポストも1月26日に「日本は過去と向き合え」という、これまた非常に歴史的精査が乱暴な論説を「日本専門家」のジェニファー・リンドに書かせ、社説でも河野談話見直しを批判している。歴史学の成果を無視して日本人の人権を蹂躙する、NYタイムズやワシントンポストの、この反日ファッショ的な姿勢の背景に何があるかは別稿に譲るが、歴史を振り返る作業をただ単純に「RIVISIONISM」という言葉で断罪する思考停止は、米国の命取りになるのではないだろうか?  そもそも性奴隷という概念を日本軍と結びつける行為こそ、「rivisionism」であり、Matrixであり、バーチャル・リアリティなのである。欧米人はこのような仮想現実で日本を永年の隷属させて、自分たちのアジアへの侵略や人権蹂躙を帳消しにしようというのか、と訝り始める日本人が多くなるであろう。 それは、決して日米関係に良いことではない。 「大東亜戦争」という言葉は敗戦後、連合国総司令部によって禁止され、「太平洋戦争」という言葉を使用することが日本人に課せられた。言葉を奪うことは侵略の初期段階であることは言うまでもない。自分たちの言葉を失った日本人は、歴史も現在の事象も〈仮想現実〉になってしまう。日本人をそこまで追い込んでいるのが〈反日というシステム〉なのである。  占領が終わり、占領軍の言論統制からまぬがれ、検閲が終わったにもかかわらず、日本人が「大東亜戦争」という言葉を自主検閲で葬ったときから、そのシステムが起動したのである。そして、監督ウォシャウスキー兄弟による映画「マトリックス」の主人公、トーマスのように、日本人は自分たちを非難の渦に永久に巻き込む世界が〈マトリックス〉=〈仮想現実〉であることに気づかないまま〈反日の構造〉の中に埋没してきたのだ。  これは、文学的な修辞で弄んでいるのではなく、決してただの比喩でもない。事実、平成二十三年十二月に韓国で持ち上がった日本軍の慰安婦問題への動きは、馬鹿馬鹿しいほど仮想現実の世界ではないか。ソウルの日本大使館前に十二月十四日午前十時時過ぎに設置された慰安婦を表したブロンズ像は、戦地娼婦であった現実の慰安婦とかけ離れた観念と恣意によってフォルム化された、まさに〈マトリックス〉としての〈従軍慰安婦〉なのである。そして、その〈マトリックス〉がNYタイムズやWポストを賑わすことになったのが今回の事態の本質なのである。 なぜ、慰安婦問題が米国で提起されたのか  かつてアジアに悪逆非道な侵略戦争を仕掛けた日本で、当時の軍国主義の亡霊が蘇っている。二十万人の女性を性奴隷として虐待した日本軍国主義の犯罪を、現在の安倍政権が否定しようと画策している・・・・。  恐らく、米国を中心に二〇〇七年に湧き起こった <従軍慰安婦> 問題を簡単に説明すればそういうことになる。そんな馬鹿げた、当の日本人が「あり得ない」と思うような筋書きが誰かによって書かれ、誰かによって演出されている。真面目でお人好しな日本人は虚を衝かれ、ただ狼狽し、身をすくめて嵐が通り過ぎるのを待つのみで、「悪かった悪かった」と再び謝罪を繰り返せば自らへの攻撃もやがて止むかとひたすら耐えているかのようだ。  歴史や政治に少しでも関心のある日本人にとって <従軍慰安婦> 問題など、十年前の大メディアを巻き込んだ歴史論争ですでに終了している問題であり、馬鹿馬鹿しくとても付き合えない代物だが、なぜ、現在も政治問題、外交問題として蒸し返されているのだろうか? しかもこの時は、いわゆる特定アジア(韓国、北朝鮮、支那)ではない、米国から降って湧いたように持ち上がった問題なのである。  結論から先に言えば、これは本質が歴史問題でも歴史認識の問題でもないことが重要なのである。もちろん、根底にあるのは歴史認識の問題だが、歴史学や史実とおよそ異なった位相で反日攻撃が繰り広げられていることがポイントなのだ。例えば日本の国会でも平成十三年(二〇〇一)以来、毎年のように「従軍慰安婦法案」が政治運動として提出されていることを見過ごしてはならない。  つまり、慰安婦を日本軍が強制連行したという、吉田清次の偽書『私の戦争犯罪』(一九八三)や証言、さらに朝日新聞の平成三年(一九九一)八月十一日の植村隆記者の慰安婦証言スクープ捏造記事、平成四年(一九九二)一月十一日の吉見義明中大教授と連携した日本軍が慰安婦強制連行に関与していたというプロパガンダ記事などの嘘が、すでに白日の下に暴かれているにもかかわらず、何回も慰安婦補償の法案が国会に提出されていることが最大の問題なのである。国内の慰安婦法案については後で触れるが、それら国内の慰安婦問題とこの時米国でマイク・ホンダ議員が提出した対日非難決議案(以後「ホンダ法案」)は、相似形であり、同じ構造を持っているのだ。  この時の慰安婦問題が歴史認識の問題でなく、歴史論争になっても決して解決するものでなく、本質は別の二つの原因が複雑に絡み合っていることを初めに提起しておきたい。 北京とワシントンを繋ぐ、点と線  第一に挙げられるのが、米国下院の「ホンダ法案」は反日国際ネットワークによる謀略の側面があったということだ。マイク・ホンダ議員が提出する以前、同種の法案は昨年も <人権派> のレイン・エバンズ下院議員が積極的に動いて提案していた。これまで数回提出され廃案になっていたのだ。レイン・エバンズ氏はパーキンソン氏病を患い昨年末に議員を引退したが、在米韓国系団体の従軍慰安婦対策委員会のソ・オクジャ会長と婚約するまで <同志的愛情> を育んでいたというエピソードもある。  一方、ホンダ氏は日系三世で、大東亜戦争中の子供時代に強制収容所に入っていたと経歴に記されているが、その証拠がないという話もある。ただ、ホンダ氏が日系三世であろうと成りすまし日系人であろうと、それほど意味はなく、中華系住民と韓国系住民がが極めて多い選挙区選出であることの方が遙かに重要なのである。  すでに産経新聞ワシントン駐在特別編集員の古森義久氏の取材で明らかになっているが、ホンダ議員は華僑団体からの政治資金の献金が際立っている。  二〇〇五年の上海、北京の反日暴動の司令塔だったと言われる在米華僑団体、「世界抗日戦争史実維護連合会」会長のアイビー・リー氏を初め、人民政治協商会議広東省委員会顧問のフレデリック・ホン氏、日本の <残虐行為> を糾弾する「アジア太平洋第二次大戦残虐行為記念会」事務局長のチョフア・チョウ(周筑華)氏、南京虐殺記念館を米国に開設しようという「中国ホロコースト米国博物館」役員のビクター・シュン氏などという、反日活動家や反日組織から献金を多額に受け取っているのだ。  その中でも「世界抗日戦争史実維護連合会」は、韓国系の反日組織や北朝鮮の工作機関とも連携する団体で、AOL副会長のテッド・レオンシスが製作したアイリス・チャンの『レイプ・オブ・南京』を下敷きにした反日映画「南京」の製作にも資金援助などを行っていた。そういった反日組織は中国共産党と連携していることは間違いなく、中国共産党が背後にある「ホンダ決議案」とも言える。  このような反日国際ネットワークによる謀略が「ホンダ決議案」の本質なので、日本を貶め、弱体化させる <情報戦争> の一環として提出された法案である。すなわち、相手が初めから正しい歴史認識など持ち併せていないことは自明であり、支那を中心とする韓国、北朝鮮の特定アジアの <反日ファシズム> が根底にある。  したがって、歴史論争を通して正しい歴史認識で「ホンダ決議案」に対峙するのは正攻法であるが、謀略の仕組みを解析し、<情報戦争> にはインテリジェンスを以って対峙しなければ七十年前と同じ敗北を喫することになるのである。  東京裁判で南京虐殺の決定的な論拠となったティンパーリー著、『WHAT WAR MEANS(戦争とは何か)――支那における日本軍の恐怖』(一九三八)が国民党国際宣伝処による対外宣伝工作書であり、当時の日支関係において国際宣伝工作のうねりが米英を巻き込んで行ったという事実を私たち日本人は「歴史の鑑」にしなければならない。 恐ろしい情報ロンダリングの仕組み  では、実際にインテリジェンス戦争がどのように仕掛けられているのか検証する必要がある。安倍首相(当時・以下略)の河野談話を見直すという発言が、なぜ、米国で全メディアからヒステリックに批判されたのだろうか?  平成十九年(二〇〇七)三月一日に、安倍首相が記者団に「ホンダ決議案」にどう対応するのかと質問され、軍による組織的な女性の強制徴用の証拠はないことを強調し、その点で河野談話には欠陥があることを指摘した。 「強制性を証明する証言や裏付けるものはなかった。だからその定義については大きく変わったということを前提に考えなければならない」  ただそれだけの囲み取材の応答だが、当時も官邸のサイトでは内容を確認することができなかった。後で詳述するが、この点でも日本はインテリジェンス能力に劣っているのである。  安倍首相は河野談話継承を明言した平成十八年(二〇〇六)十月の衆院予算委員会でも「狭義の強制性」を「家に乗り込んで強引に連れて行った」、「広義の強制性」を「行きたくないが、結果としてそうなった」と説明した上で「狭義の強制性については事実を裏付けるものは出てきていない」と答弁していた。  この発言は歴史的事実に基づく適切なもので翌平成十九年(二〇〇九)三月一日のコメントもほぼ同様の内容なのである。したがって日本メディアは時事と産経以外はそれほど大きな記事にしていなかった。  産経は同年三月二日に《首相、河野談話の見直し示唆「強制性裏付けなし」》という見出しで詳しく事実関係を報じた。時事通信も同年三月一日二十二時三十分付けでこう配信していた。 《[従軍慰安婦「強制の証拠ない」=河野談話の見直し否定せず−安倍首相](※見出しG)  安倍晋三首相は1日夜、従軍慰安婦問題を謝罪した1993年の河野洋平官房長官談話について「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ」と述べ、旧日本軍が従軍慰安婦を強制的に集めて管理した証拠はないとの認識を示した。また、談話見直しの必要性に関しては「定義が大きく変わったことを前提に考えなければならない」と語り、否定しなかった。首相官邸で記者団の質問に答えた。(以下略)》  ところが米国メディアが一斉にこの発言に餌を待っていたダボハゼのように喰いつくことになる。それを共同通信が二日後の三月三日にこう伝えていた。 《[河野談話見直し準備と報道 首相発言で米紙](※見出し書体G) 2007年03月03日 12:23【共同通信】 【ワシントン2日共同】2日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、従軍慰安婦問題で安倍晋三首相が旧日本軍による強制を示す証拠はないと発言したと伝え、旧日本軍の関与を認めた1993年の河野洋平官房長官談話の見直しを準備していることを「これまでで最も明確に」示したと報じた。  2日付のワシントン・ポスト紙も東京発のAP通信の記事を掲載。安倍首相の発言は従来の日本政府の見解と矛盾し、中国、韓国の反発を招くのは確実とした。》 三日間で何が起きたのか  つまり、三月一日から三日までの三日間でメディア情報の流通回路で何らかのバイアスが掛けられ、情報戦争という意味で戦局に大きな変化があり、安倍首相と日本のマイナスイメージが増幅されたのだ。  まずニューヨークタイムズ(以下NYタイムズ)が三月二日に、私が <反日スプリンクラー> と名付けるノリミツ・オオニシによる《安倍 戦時セックスの日本の記録を拒否》という下品で恣意的なヘッドラインの記事を掲載した。見出しから大きな情報操作をしているが、記事の内容もオオニシ流の酷いものだった。 《安倍晋三首相は、日本政府の長年の公的立場に矛盾して、木曜日に日本軍が第二次世界大戦中、性的奴隷制度に外国人の女性を強制していたことを否定した。安倍氏の声明は、政府が否認する準備をしている、売春宿を設置し[性的な奴隷制度に女性を強制した](傍点)ことに直接もしくは間接的に軍の関与を認めた一九九三年の政府声明からは、最も明確に遠いものになった。(略)「強制があったと証明する証拠は全くない。それを支持するものは何もない」、「この宣言に関して、ことが大きく変化したことを留意するべきだ」と安倍氏は報道陣に言った。(以下略)》(傍点西村)  安倍首相の囲み取材は決して公式な政府声明でないのだが、あえてオオニシは日本への批判が強まるように声明であるかのようにデッチ上げ、九三年の河野談話まで政府声明と書いている。記事本文の歪曲も驚くほど悪意に満ちている。「また、オオニシか」で済む人はいいのだが、この記事がさらなるバイアス(偏向)風に乗り、世界中に拡散される。しかも、この時は東京のAP通信が、オオニシに負けず劣らず、日本を棄損する八面六臂の大活躍をしていたのである。 タブチ・ヒロコ(現NYタイムズ)の捏造記事  AP通信は三月一日午後十時三十七分に《日本の安倍:第二次大戦の性奴隷 証明されず》という見出しの長文の記事を配信した。「ヒロコ・タブチ」という[日本人](傍点)と思われる記者の署名クレジットが入った記事だが、[中帰連出身者のインタビューを冒頭に置く](※傍点)この記事にも、多くの誤りと疑惑がある。 《金子安次、八十七歳は、彼が第二次世界大戦の日本帝国陸軍の兵士として[支那で強姦した無数の女性](傍点)の叫びを憶えている。一部は[軍営の売春宿の性の奴隷](傍点)として韓国から[連行された](傍点)十代の少女だった。「私達は皇帝の兵士だった。 軍の売春宿や村で、[私達は当然のこととして強姦した](傍点)」とAP通信の取材に答えた。》(傍点西村)  中帰連とは支那戦線で捕虜になり撫順の収容所で徹底的に中国共産党に洗脳されて、日本共産化の先兵として日本へ送還された人たちである。そもそも証言の信憑性がない上に《軍営の売春宿》などと事実無根の証言をしている。あるいは、タブチ・ヒロコの証言捏造の可能性もあるのだがら、インタビュー内容は押して知るべしである。  南京のケースでもこの手の話を聞いていつも思うのは、もし、本当に証言者の発言が正しいのなら、今すぐ戦犯として <処刑> されるべきだろう。軍規の厳しい日本軍の名誉のために、そして何よりも無実の罪で処刑された多くのいわゆる「BC級戦犯」(BC項戦犯)のためにも、それこそバウネットの「女性国際戦犯法廷」にでも名乗り出るべきだろう。金子安次氏は皇居前で自害でもして全ての日本人と被害者に謝罪するべきなのである。  タブチ・ヒロコの悪質な記事に話を戻すと、こう続く。 《[複数の歴史家](傍点)は大方このように言っている。30年代および40年代のアジア中の日本軍の売春宿で、韓国および中国からの[約20万人の女性](傍点)が用立てられたと。多くの犠牲者は[日本軍によって誘拐され、強制され性奴隷になった](傍点)と言う。官房長官は、1993年に[このような悪事を認めている](傍点)のだ。  現在、日本政府の一部は謝罪が必要だったかどうかを問題視している。木曜日(西村注・三月一日)に安倍晋三総理はアジア中から女性が強制的に軍の売春宿に集められたことを否定した。それは、[右翼政治家](傍点)たちの努力によって謝罪の公式な修正を推進するためだ。「事実は、強制があったとことを証明するべき証拠がないことだ」と安部は言った。  注目すべきは、安倍は日本軍が建築業者に売春宿を作る命令書で、[日本軍の強制性について直接的役割があったことを示す日本政府の文書](傍点)が発見されたと一九九二年に[歴史家たち](傍点)が言った証拠を否定したことだ。》(傍点西村)  傍点部分は全てタブチ・ヒロコの作為的な捏造であるが、さらに問題なのは、NYタイムズ同様、安倍首相の発言が正しく伝えられていないことなのである。 悪質な捏造記事はこう生まれる 《「強制があったと証明する証拠は全くない。それを支持するものは何もない」、「この宣言に関して、ことが大きく変化したことを留意するべきだ」と安倍氏は報道陣に言った》(ノリミツ・オオニシ/NYタイムズ) 《「事実は、強制があったとことを証明するべき証拠がないことだ」と安部は言った》(タブチ・ヒロコ/AP)  当時、日本メディアが伝えていた「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ」という言葉と、強制性の「定義が大きく変わったことを前提に考えなければならない」という部分がきれいさっぱり抜け落ちている。「定義」という日本語を日本語が堪能なオオニシ記者やタブチ記者は知らなかったのだろうか? それとも、彼らは著しく日本語の能力に劣っているから外国メディアに活動の場を求めたのであろうか? いや、これは、安倍首相の発言を歪曲して海外に伝えるための意図的な削除だったのである。  つまり、[これらの記事は報道ではなく](※傍点)、安倍氏の河野談話見直しのコメントを[意図的に歪曲し、残虐な日本軍というイメージを増幅する](※傍点)信頼できない証言や誤った情報で前後の文脈を埋めた、[悪質極まりないプロパガンダだった](※傍点)のである。  AP配信の記事は世界中のメディアが掲載する。日本と安倍首相の誤ったイメージが、このように世界中に <偏向風> に乗ってばら撒かれたのである。  他のAP電でも、安倍首相の発言を支持する政治家や歴史家を「Nationalist politicians and scholars(国家主義者の政治家と学者)」とされ、強制連行あった派の学者を「歴史家」と記述する時代遅れの偏向と日本人への差別意識が窺える。  日本の事情が何も分からない世界中の受け手が、「歴史家」と「国家主義者」のどちらの主張を信頼するのであろうか? 「歴史家」を「反日史観学者」と書き、「国家主義者」を「愛国的歴史学者」と書けば、イメージは百八十度逆転する。オオニシ、タブチ両記者の「歴史家」は中大の吉見義明教授であり、複数形で表示される情報操作まで行われていた。  しかも、タブチ・ヒロコは、吉見氏の一九九二年の資料発見が「陸支密第七四五号」であり、悪質な業者や女衒に[強制連行をするなと指導した文書](※傍点)であることも知らないか、敢えて無視している。この文書は、反日主義者が主張する <日本軍の慰安婦強制連> のようなことを行う朝鮮と日本の業者を、日本軍が非難、禁止するもので、日本軍の威信を傷つけ、社会的な問題を起こす行為を徹底的に取り締まるという指令書なのである。 取材なしに記事にする差別意識  さらに注目すべきは、AP電の発信された時間である。午後十時三十七分と時事電と七分しか違わないのに、膨大な文字数の原稿を出稿している。冒頭の金子安次氏の取材がいつ行われたか知らないが、当然、あらかじめ書かれた信頼の置けない証言者の恣意的なインタビューを大きく訴求する予定稿に、安倍首相のコメントだけを挿入し、釣堀で餌に喰いつくように首相のコメントを時事が配信した直後に素早く記事にしている。  さらに大きな疑問は、NYタイムズとAPで同時に報じられた、歪曲された安倍首相の河野談話見直しのコメントが、首相官邸のぶら下がりで取材されたものではないことだ。オオニシ記者とタブチ記者は、この平成十九年(二〇〇七)三月一日に首相官邸で取材をしていなかったのである。時事電を見て適当に首相のコメントを挿入したか、この二人に首相のコメント内容を伝えたメッセンジャーのような官邸記者の存在が考えられる。  いずれにしても、このように <情報ロンダリング> が行われ、日本の国益が一方的に損なわれる報道が日夜発信できるシステムが日本の中枢に存在していたのである。この時の情報戦争は、すでに本土決戦どころか、首相官邸を戦場として繰り広げられていたのだ。  かくて、平成十九年(二〇〇七)三月〜四月の二カ月は、慰安婦問題で安倍首相と日本を攻撃する報道が世界中で溢れ返ることになった。安倍首相が述べた「(強制性の)定義が大きく変わったことを前提に考えなければならない」という言葉は隠蔽され、日本は一度認めて謝罪したことを撤回する、という単純なイメージによるネガティブキャンペーンがAP、NYタイムズによって拡散され、全世界のメディアが繰り返し繰り返し、日本の[歴史歪曲](傍点)を報じることになったのである。  その結果、ロサンゼルスタイムズなどは天皇が謝罪すべきなどと非常識で全く知的でない愚かな記事を掲載した。さらにウォールストリートジャーナル、ワシントンポストなどの主要紙が社説で日本を強く非難した。  ワシントン・ポストは三月二十四日に「安倍晋三の二枚舌」("Shinzo Abe's Double Talk")という侮蔑的なタイトルを掲げ、オオニシとタブチの情報操作を見事に反映させた社説を掲載した。 《(略)安倍首相が北朝鮮側の非協力的態度を批判すること自体は当然のことだ。しかし、第二次大戦中に日本が何十万人もの女性を強制連行・強姦してセックス奴隷にしたことに対する日本の責任を認める立場を後退させる動きを、これと並行して安倍首相が見せているのは、奇怪であり人を不快にさせるものだ。アメリカ下院で、日本の公式謝罪を求める決議案が審議中であることに対して、安倍首相は今月2度にわたり声明を出し、日本軍が強制連行に関与したことを裏付ける文書は存在しないと主張した。先週末に出された閣議決定は、いわゆる慰安婦に対する日本の残虐な扱いを認めた1993年の官房長官談話を後退させるものであった》  このように完全に間違った歴史知識に基づき、河野談話見直しの動きを強く牽制したのである。これが米国リベラリズムの、まさに偽善の <二枚舌> の実態であった。 放火犯、朝日の役割  傑作なのは朝日新聞で、三月三日にこんな記事を掲載した。朝日は慰安婦問題に火をつけた放火犯だが、自ら放火した火事を報道して逮捕されたNHK記者と全く同じことを行っていた。 《[「正しい歴史認識を促す」と韓国政府 安倍首相の発言で](※見出し書体G) 2007年03月03日19時20分  韓国外交通商省は3日、安倍首相の慰安婦をめぐる発言について「歴史的な真実をごまかそうとするもので、韓国政府は強い遺憾を表明する」とする同省当局者の論評を発表した。論評は「河野官房長官談話を継承するとの日本政府の度重なる立場表明にもかかわらず、日本の反省と謝罪の真実性を疑わせる」と批判、日本の政治指導者に対して「正しい歴史認識を改めて促す」とした。  有力紙中央日報も3日付で首相発言を「妄言」と批判する社説を掲載。「どんな歴史も隠すことはできない。恥ずかしいからといって歪曲(わいきょく)すればするほど恥ずかしい国になる」と皮肉った。》  さらに朝日は三月十日の朝刊に扇情的な記事を大きく紙面を割いて掲載した。自らが一九九一年に慰安婦問題の火種になっていた朝日だが、この時ばかりと、この年は自らの社屋のあるNYタイムズがその火種を焚きつけて発信した炎にさらに油を注ぐ、とんでもない放火犯ぶりを見せてくれた。それも、目的は安倍政権の弱体化であった。 《[安倍首相の慰安婦問題発言 米国で止まらぬ波紋](※見出しG)  米国内で、従軍慰安婦問題をめぐる波紋の広がりが止まらない。ニューヨーク・タイムズ紙など主要紙が相次いで日本政府を批判する社説や記事を掲載しているほか、震源地の米下院でも日本に謝罪を求める決議案に対して支持が広がっているという。こうした状況に米国の知日派の間では危機感が広がっており、安倍政権に何らかの対応を求める声が出ている。 ◆広がる波紋  8日付のニューヨーク・タイムズ紙は、1面に「日本の性の奴隷問題、『否定』で古傷が開く」と見出しのついた記事を載せた。中面に続く長いもので、安倍首相の強制性を否定する発言が元従軍慰安婦の怒りを改めてかっている様子を伝えた。同紙は6日にも、安倍発言を批判し、日本の国会に「率直な謝罪と十分な公的補償」を表明するよう求める社説を掲げたばかりだ。  ロサンゼルス・タイムズ紙も6日に「日本はこの恥から逃げることはできない」と題する大学教授の論文を掲載し、翌7日付の社説では「この問題を修復する最も適任は天皇本人だ」と書いた。  今回の慰安婦問題浮上の直接のきっかけとなった米下院外交委員会の決議案をめぐっては、安倍首相が1日「強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実」と発言したのを受けて支持が広がっている。  05年末までホワイトハウスでアジア問題を扱っていたグリーン前国家安全保障会議上級アジア部長は、「先週、何人かの下院議員に働きかけ決議案への反対を取り付けたが、(安倍発言の後)今週になったら全員が賛成に回ってしまった」と語る。米国務省も今週に入り、議員に対し日本の取り組みを説明するのをやめたという。 ◆知日派にも危機感  6日に日本から戻ったばかりのキャンベル元国防次官補代理は、「米国内のジャパン・ウオッチャーや日本支持者は落胆するとともに困惑している」と語る。  「日本が(河野談話など)様々な声明を過去に出したことは評価するが、問題は中国や韓国など、日本に批判的な国々の間で、日本の取り組みに対する疑問が出ていることだ」と指摘。「このまま行けば、米国内での日本に対する支持は崩れる」と警告する。  現在日本に滞在中のグリーン氏も「強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もその点に関心はない。問題は慰安婦たちが悲惨な目に遭ったということであり、永田町の政治家たちは、この基本的な事実を忘れている」と指摘した。  その結果、「日本から被害者に対する思いやりを込めた言葉が全く聞かれない」という問題が生じているという。日米関係にとってこの問題は、「牛肉輸入問題や沖縄の基地問題より危ない」と見ている。  グリーン氏は今後の日本が取るべき対応として(1)米下院で決議が採択されても反論しない(2)河野談話には手を付けない(3)何らかの形で、首相や外相らが被害者に対する理解や思いやりの気持ちを表明する、の3点を挙げた。(以下略)》  付け加えておくが、オオニシ記者とタブチ記者がいつも前提にする二十万人という慰安婦の数は学問的にも否定されている。その結果、欧米メディアも馬鹿の一つ覚えに「二十万人」と連呼するのだが、彼らの根拠は「歴史家」吉見教授の説だけなのではないだろうか? 何の学問的な検証もなく「二十万人」という数字を一人歩きさせるのは、まさに南京の「三十万人」と同じものだ。  現代史家秦郁彦氏は、「慰安婦問題の終結」という学術論文で、慰安婦の総数は二万人で、その四割が日本人であることを明らかにしている(秦郁彦「慰安婦問題の終結」政治経済史学438・439号 平成15年2・3月合併号)。  にもかかわらず、同年三月十六日にはまたAPのカール・フレール記者が《日本国内閣 慰安婦の強制を否定》という記事で、《[歴史家が証明した二十万人の強制](※傍点)を日本政府は無視している》(傍点西村)と報じている。さらにNYタイムズは三月三十一日にも執拗に「性奴隷あった派」の吉見義明教授のインタビューを国際面の一頁を使って報じていたのである。  さらに一カ月後の四月十七日には、新しき反日スプリンクラー、APのタブチ・ヒロコ記者が十七日に海外特派員協会で行われたの吉見教授らの記者会見を満面の笑みを浮かべて報じていた。東京裁判の判決資料に多くの強制連行の証言があったという記者会見だが、いわゆるBC級戦犯の極めて信憑性の低い裁判資料がたとえ証拠となったとしても、すでに裁かれたものであり、法的にサンフランシスコ平和条約で決着済みの問題なのである。それとも、彼らは東京裁判を否定しようという、高い志でも持っていたのであろうか? 七十数年前と同じ構造が  ここで、冒頭の「なぜこの時期に慰安婦問題が米国で?」という問いに、もう一度発ち返らなければならない。慰安婦を問題化する勢力にとって、<従軍慰安婦> は永久不変の日本人の原罪であり、日本人にとって歴史問題の艱難辛苦は運命として永遠に受け入れなければならないものと考えている。それが、戦前の日本の全てが悪であるという <日本原罪史観> とも言うべき <反日ファシズム> の表れの一端であるが、今回はより複雑な文明的な、地政学的な問題も絡んでいる。  八〇年代に経済戦争で米国を圧倒した日本に対し、米国は反日感情を日本車つぶしのパフォーマンスで象徴化することができたのだが、今日、民主党の支持基盤である米国企業の労組が八〇年代のように日本企業を叩けない現状がある。バブル崩壊後の失われた九〇年代で日本経済は再び米国の後塵を拝することになったが、二十一世紀になってからの十年で再び米国の自動車産業は日本企業の後塵を拝するようになったのである。  しかも、米国の現地法人としての日本企業が米国人雇用と米国経済に貢献するという逆説が彼らを当惑させる。もはや論理的に日本企業を叩けなくなったので、その代わりに六十五年以上前の日本叩きが米国社会のガス抜になるという側面もあるだろう。  しかし、それ以上に大きいのは北朝鮮問題なのである。六者協議における日本の対北朝鮮政策は、米国と支那にとって障害になる一面もある。なぜなら、朝鮮半島の非核化を含め、日本の永遠の非核化が米国と支那の現時点の戦略的な目標であるからだ。  一説には、一九七二年の米中国交樹立で、ニクソンと毛沢東の間で日本の非核化という密約が交わされたという話もある。重要なのは、その密約がフィクションだったとしても、現時点で両者の日本非核化の目的は合致している。しかし、北朝鮮の非核化が完全に失敗した今、日本の核保有が避けられなくなったという認識が一方で留保されながら、米国と支那が日本の対北朝鮮政策を緩和させるために、日本の拉致問題の位置を低下させる武器が必要とされていたことである。  その目的に、たまたまマイク・ホンダが提出していた「ホンダ決議案」が利用されたという可能性もある。この構造は、七〇数年前と全く同じもので、蒋介石が胡錦涛に、ルーズベルトがブッシュ大統領(当時)やライス国務長官(当時)に簡単に置き換えられたのである。米国が支那を利用して日本をサンドイッチにした支那事変と大東亜戦争当時の状況と同じ構図になっているのである。  また、米国にとって東京裁判史観は絶対のものであり、日米安保が強化されることを願いながらも、日本が本当に自立することを拒もうという力が、米国でなかば自動的に働くようになっているのだろう。戦後レジームの転換を政策の一義的な目標に掲げるだけでなく、国家戦略として位置づける安倍政権は、論理的に米国との対峙がアプリオリに用意されていたのである。  米国にとって日本が危険なものという認識がイラクの占領・統治で疲弊した米国内で強まった可能性も考えられ、米国が支那と協調しようとすれば、必然的に日本が独自のポテ ンシャルを持つと厄介なものになるという図式もあるからだ。  しかし、それは決して日米離間に繋がるものでなく、むしろ成熟した二国間関係を構築する第一歩になるはずだ。ただ、今後も情報戦争でその危うい日米関係のバランスを衝かれる様々な工作が何回ともなく差し向けられるはずである。 蘇るゾンビ、岡崎トミ子法案  そこで、私たちは、もう一度国内に目を向けなければならない。  当時は米国議会のことに目を奪われがちだったが、じつは、慰安婦をめぐる法案が何回否決されてもゾンビのように蘇っている日本の国会の方が、相当深刻な問題なのである。  平成十八年(二〇〇六)の第百六十四回通常国会に民主党の岡崎トミ子参議院議員らによって提出された「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」は、何と七回目の国会提出で、ほぼ会期ごとに提出され毎回廃案になっている。一方、日本共産党の高橋千鶴子衆議院議員らも「日本軍慰安婦問題解決のための法制定に関する請願」を何回も提出しているのだ。  岡崎トミ子議員は平成十四年(二〇〇四)二月に国会会期中でもあるにもかかわず、ソウルの日本大使館前の反日デモに参加し、「ニッポン、反対!」というプラカードの前でシュプレヒコールまで挙げていた(「甦るゾンビ 『従軍慰安婦法案』」・「WiLL」平成十五年五月号参照)。当時週刊誌でも報道され、多くのブログで岡崎批判が湧き起こったが、この人物は議員辞職もしていないまま今日に至っている。だが、皮肉なことに、この法案の前提になっている「日本軍の強制性」の定義が米国下院で採択された日本非難決議案と同様なので、一連の国際謀略を解く鍵を提供してくれているのだ。さらに民主党の基本政策にもこの法案は盛り込まれ、平成二十二年(二〇一〇)の日韓併合百年をに合わせた「菅談話」にも繋がっているのである。 「岡崎トミ子法案」は以下の通りだ。 《第一条 この法律は、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ、これによりそれらの女性の尊厳と名誉が著しく害された事実を踏まえ、そのような事実について謝罪の意を表し及びそれらの女性の名誉等の回復に資するための措置を我が国の責任において(以下略)》 《第二条 この法律において「戦時における性的強制」とは、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の直接又は間接の関与の下に、その意に反して集められた女性に対して行われた組織的かつ継続的な性的な行為の強制をいう。 2 この法律において「戦時性的強制被害者」とは、戦時における性的強制により被害を受けた女性であって、旧戸籍法(大正三年法律第二十六号)の規定による本籍を有していた者以外の者であったものをいう。》  慰安婦問題が歴史認識問題でないと言ったのは、この法案でも《旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ》たとか《旧陸海軍の直接又は間接の関与の下に、その意に反して集められた女性に対して行われた組織的かつ継続的な性的な行為の強制》という、およそ歴史問題として論争にもならない低次元な、悪質かつ暴力的な政治宣伝の文言になっているからだ。 民主党法案の日本人差別  しかも驚いたことに、この法案は《旧戸籍法の規定による本籍を有していた者以外の者》、つまり[日本人以外にしか適用されないもの](※傍点)で、圧倒的に数が多かった日本人慰安婦を切り捨てた、法案提出者の人権感覚が疑われる日本人蔑視に基づく差別的な法案に他ならないのである。はっきり書けば、これは日本人以外の民族からの、日本人に対するルサンチマンを底流とする民族的な復讐に他ならない。  よく言われる「狭義の強制性」は、第二条の《直接》《の関与の下》に当たり、「広義の強制性」は《間接》《の関与の下》に当たるのだが、第一条で日本軍の《関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ》たとしているので、「広義」も「狭義」も関係なく、日本軍の強制連行を謳い上げていることに変わりはない。つまり、歴史事実に基づかない極めて特殊かつ偏狭な観念から生まれた危険な法案であることが理解できる。  日本国民の義務にしか過ぎなかった戦時徴用で、日本国民と同様の扱いを受け、徴用された韓国人を <強制連行> されたと言い換える、まさに朝鮮人にしか通用しない詐術でこの法案は貫かれている。  安倍元首相が「広義の強制性」を認めるものの「狭義の強制性」を認めないと当時発言したのは、慰安婦問題の論争が決着し、すでに中学校の全ての教科書から <従軍慰安婦> という嘘の言葉が削除された現在、国内的には極めて効果的だったのである。しかし、それが海外ではマイナスに作用するように巧妙に仕組まれていたのだ。と同時に、これは安倍元首相のメディアにも信じられ得るものがあるという <メディア性善説> がもたらした悲劇だった。  そもそも、「広義の強制性」と「狭義の強制性」とは、平成十九年(二〇〇七)の謀略劇の陰の立役者である吉見教授が、朝日新聞と一緒に強制連行の嘘を認めたくないためにデッチ上げた、まるで三流弁護士のような詭弁の文言に過ぎなかったものだ。米国下院で採択された決議案も、それ同様の「広義」も「狭義」も関係ない、「岡崎トミ子法案」第一条のような、暴力的テロルの域に達したものだという認識が必要なのである。 情報発信を放棄していた首相官邸  そこで、このような反日テロルをどう防ぎ、対処するかという方法になるが、異なる二つの次元で対応しなければならない。まず、何度も書いているように日本の <情報力> を飛躍的に高めることだ。つまり、インテリジェンス能力の確立が急務なのである。情報発信と情報収集・分析の両方を私は <情報力> と定義するが、いわゆるインテリジェンスの情報発信機能にはパブリックディプロマシー(広報外交)の整備、構築、確立が必要になる。  昭和十二年(一九三七)のいわゆる南京虐殺は言うに及ばず、一九三〇年代を通して行われた支那の宣伝工作が米国世論の反日感情を醸成した経緯と、現在の問題は全く同じ構造を持っていることに着眼すべきなのである。安倍首相の「狭義の強制性は無かった」という発言が海外メディアにどう伝えられ、その結果、どのような反応を得られたかという経緯を詳細に解析することが、パブリックディプロマシーの根幹に関わる問題なのである。  例えば、この年の内閣府のホームページに掲載された総理の演説・記者会見は平成十九年(二〇〇七)五月十日時点で十五件しか掲載されていなかった。同年三月一日の首相官邸での囲みの記者会見の内容が大きく歪曲され、情報ロンダリングの渦中に沈み込んだことは詳述した通りである。 《日本国憲法施行60周年に当たっての内閣総理大臣談話(H19.5.3) 米国・中東諸国訪問における内外記者会見(H19.5.2) エネルギー安全保障、クリーン開発及び気候変動に関する日米共同声明(仮訳)(H19.4.27) グローバル貿易、エネルギー及び環境に関する課題に対処するための日米協力(H19.4.27) 内閣総理大臣のコメント(バージニア工科大学における乱射発砲事件に関する安倍総理大臣発ブッシュ米国大統領宛メッセージの伝達)(H19.4.17) 日本・イタリア共和国共同記者会見(H19.4.16) 内閣総理大臣記者会見[平成19年度予算成立を受けて](H19.3.27) 日・豪共同記者会見(H19.3.13) 日本・アイルランド外交関係開設50周年に際する安倍総理メッセージ(H19.3.5) 内閣総理大臣のコメント(H−IIAロケット12号機打上げについて)(H19.2.24) 第166回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説(H19.1.26) 経済財政諮問会議答申を受けた「日本経済の進路と戦略」(閣議決定)についての内閣総理大臣の談話(H19.1.25) 欧州訪問における内外記者会見(H19.1.13) 安倍内閣総理大臣年頭記者会見(H19.1.4)》  このような情報発信しか行われていなかったのだから、情報発信を自ら拒んでいたと言われても仕方あるまい。当時の首相官邸のサイトにも英文ページはあったのだが、従軍慰安婦について触れた情報が記者会見も含めて全く無かったことは驚くべき失態であった。  外務省の広報能力など全く役に立たないのだから、少なくとも、毎日の囲み会見の内容だけでも掲載するべきだった。安倍政権誕生後、官邸の囲み会見を官邸側も公開する案が[記者クラブの反対で](傍点)立ち消えになったが、この計画は真っ先に見直されるべきで、インターネットで記者会見内容を一秒も漏らさず伝えるべきだ。メディアの恣意的な細切れ会見報道は、国民の知る権利を侵害している最大のものの一つである シンクタンク設立を  このように日本では海外の誤解を解くパブリック・ディプロマシーの役割を放棄していたも同然だった。米国国務省のサイトで政府高官の発言(記者会見記録やTVでの発言記録)のほとんどが掲載されるのは、誤解を避け、メディアの偏向報道を防ぐ役割がある。今こそ、たとえ民主党政権であっても日本政府は国民や全世界へ向けた、メディアを情報回路としない、一次情報の提供による新しい広報体制を構築することが急務である。海外へのパブリックディプロマシー以前に、まず、国内へ向けた広報外交が必要とされているはずだ。いったい、国民のどれだけが新聞、テレビの報道を信じているのだろうか?  外務省も本来の仕事をするべきである。安倍政権当時、慰安婦問題でこれまで日本は何回謝罪してきたかなどという寝ぼけた発言を繰り返しただけで、平成十九年(二〇〇七)三月〜五月の情報戦争に何の効果があったと言うのだろうか?  在米日本大使館のサイトにある慰安婦問題の情報ページ(http://www.us.emb-japan.go.jp/english/html/cw1.htm)を見ると、少なくとも十年は何も変化していないのではないかという疑問を持つ。何しろ、韓国、支那などによる強制性について何の反論も行っていないのである。いったい、どこの国の外務省、大使館のサイトなのであろうか?  外務省が、九〇年代の宮沢、橋本内閣当時と同じ路線の謝罪一辺倒の立場を変えなかったのは、事実と反しメディア対策上も不利である。外務省が国民、国会、内閣の見解や立場を無視する、謝罪路線を維持するのはかえって外交摩擦を呼ぶのではないだろうか?  今、最も必要なのは、そういった機能を果たすシンクタンクの設立である。欧米、アジアの親日・知日派と日本はどう取り組むかをコンセプトにする情報発信シンクタンクであり、半官半民か民間で運営されるべきものだ。このプロジェクトは、例えば慰安婦、南京問題だけでも、五年〜十年年かけて取り組むべきもので、事実の発信を積み重ねることでやっと誤解が解け始めるという瀬戸際に日本は立たされているのである。  これは当時聞いた西岡力氏のアイデアだが、「ホンダ法案」を受けて世界の大量人権弾圧を事案とする研究機関を作り、世界史上の大量人権弾圧問題を日本人中心に研究調査することも考えられる。アジア、アフリカ、アメリカ、欧州の全てを網羅する国際プロジェクトとして推進するのである。そうすれば、そのシンクタンクで、支那の北朝鮮難民、チベット、ウイグルへの人権弾圧や、現在の北朝鮮女性の <性奴隷> 問題を告発すること可能となり、日本の中国共産党や北朝鮮に対するカードにもなるのである。  さらに、米国の教科書に記載されている歪曲された慰安婦、南京問題にも対応でき、拉致問題解決についても射程に置けるはずである。 三年後からの検証。謝罪していなかった安倍元首相  この原稿を本書に収録するに当たってどうしても追記しなければないことがある。それは、平成十九年(二〇〇七)四月の訪米で安倍首相がブッシュ大統領に慰安婦問題で謝罪したという報道が流れたことである。ワシントンのホテルに設けられたプレスセンターの会見で、ブッシュ大統領が日本人記者の「慰安婦問題についてはどういう話があったのか」という質問に「首相の謝罪(apology)を受け入れる(accept)。大変思いやりのある率直な声明だ」と述べたことが発端だった。  ところがこの場にいた産経新聞の阿比留瑠比記者が不審に思い、その後何回かの取材を続け、両首脳の会談で[慰安婦問題は話題にもならなかったという事実](※傍点)が判明したのである。当時、安倍元首相が不要な謝罪をしたということで大きな波紋を広げ批判に曝された。したがって、事実を明らかにさせるという意味からも、阿比留氏が知り得たことを追記しなければならない。  平成十九年(二〇〇七)九月十九日、安倍首相の体調悪化による突然の辞任で政治状況が混乱する中、産経新聞が「【記者が語る安倍政権】(下)負の遺産抱えた後継者」という政治部記者による座談会を掲載した。 《石橋「それから計算外だったのは米国の変節だね。北朝鮮との対話路線への転換は、日本の『対話と圧力』路線を揺さぶった。米議会の話とはいえ、慰安婦問題をめぐる対日非難決議案も打撃となった」 阿比留「4月の日米首脳会談のとき、首相がブッシュ大統領に慰安婦問題で謝罪したと報じられているが、実は首脳会談では慰安婦問題は話題にならなかった。会談冒頭にブッシュ氏が『慰安婦問題と牛肉の対日輸出再開の件は話したことにしておこう』と言っただけだったが、共同記者会見で慰安婦問題の質問を受けたブッシュ氏が『安倍の謝罪を受け入れる』と一方的に答えたというのが真相なんだよ」》  何のことはない。ブッシュ氏の不用意な発言が安倍氏の謝罪発言があったことにしてしまったのだ。しかし、問題なのはこのような不測の事態に対する官邸の危機管理能力だろう。ブッシュ氏の不用意な発言は彼の頭脳の問題でなく、じつはそれだけ、慰安婦問題など、米国では歯牙にも掛けられていない、取るに足らない問題だったし、今もそうであるということの他ならないのだが、日本側は会見の直後に米国政府と調整し、何らかの会見の訂正のブリーフィングを行うべきだった。  また、それと同時に、取るに足らない問題を咄嗟に「謝罪を受けた」とブッシュ元大統領が自然に発言するほど、米国メディアが反日プロパガンダの猛威に席捲され、極度に偏向した情報空間になっていたということなのである。この後日談も、かかる意味で慰安婦問題の本質を[抉剔](ルビ・てっけつ)しているのだ。