「「幻」の日本爆撃計画―「真珠湾」に隠された真実」アラン・アームストロング著、塩谷紘翻訳、日本経済新聞出版社、2008年11月発行、¥2,100(税込み)

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著者は1945年、米国ジョージア州アトランタ生まれの弁護士(航空法の権威)。
訳者は1940年生まれのジャーナリスト。「ジャーナリスト生活の半分近くをアメリカで過ごす」(訳者あとがき)と書いている。
本書は、日本軍による真珠湾攻撃の1年以上も前から、米国政府の首脳陣はアメリカ人による中国における義勇兵(航空戦隊)[フライング・タイガー]を使って日本を空爆する秘密計画を検討していた事実を詳細に解明したものである。本書冒頭には日本への先制爆撃計画「JB-355」を承認した、1941年7月18日付のルーズベルト大統領署名入りの文書(署名の日付は1941年7月23日)の写真が掲載されている。
「対日先制攻撃は、蒋介石に雇われたアメリカ人義勇兵が操縦する一五〇機の長距離爆撃機を中核とする一大航空部隊が中国大陸南東部の秘密基地から本州を襲い、続いて各地の主要都市に連夜、焼夷弾の雨を降らせる計画だった。だがアメリカは、爆撃機供与を中国に約束したものの、ナチスの猛攻に喘ぐイギリスを優先的に支援する必要から引渡しが遅延し、真珠湾奇襲に後れを取ったのだった。」(訳者あとがき)
「JB-355計画が生まれた政治状況は、アメリカが公式には交戦状態にない時期に、事実上、一交戦国(註:中国)を援助し、軍事行動を率先して計画・実行しようとしたアメリカ大統領の姿を明らかにしている。」(結論)
当時、米国政府首脳の一人としてこの秘密計画を強力に遂行していた大統領補佐官ロークリン・カリーは、KGBのエージェントだったことが戦後に発覚して、南米コロンビアへ逃亡した(一九九三年死亡)。
本書で一つ気になるのは、著者の満州事変、日中戦争、大東亜戦争などの理解が非常に表面的(ステレオタイプ)で、当時のアジアや日本に対する無知にまったく気づいていない点である。本書の原著が出版されたのが2006年だから、これが現在でもアメリカ人の平均的な理解なのかと驚かされる。米英蘭仏各国は大東亜戦争により結局、搾取の限りをつくしたアジアの植民地を失ったわけで、経済封鎖にあった日本が資源を求めて南方諸国へ侵攻したことが彼らにとって侵略と映るのは仕方のないことかも知れないが、その立場が有色人種国家への過酷な植民地支配と搾取を正当だと考える白人侵略者の思想であることには気づいていないようである。結論で述べているアメリカによるイラク攻撃に対する見解も、単にアメリカ政府のプロパガンダを反復しているだけのように見える。
日中戦争を「日本人は中国人絶滅を目論んだ戦争で・・・」(結論)などというのは、南京事件(1927年3月)、西安事件(1936年12月)、盧溝橋事件(1937年7月7日)、通州事件(1937年7月29日)、上海事変(1937年8月13日~)などを始めとする、共産主義者と結託した当時の中国の無法に無知なためだろうが、書く以上はもう少し調査してから書くべきである。

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