著者はハーバード大学卒業(1955年)の米人ジャーナリスト(2007年、交通事故で死亡)。訳者の山田耕介は1935年生まれ、新聞記者を経て翻訳業。山田侑平は1938年生まれ、共同通信記者を経て人間総合科学大学名誉教授。
本書は朝鮮戦争をマクロ的に世界史的視点から分析した研究書ではない。朝鮮が南北に分断されるに至った根本的要因や、朝鮮戦争を招くまでになったルーズベルト・トルーマン政権の過去の政策の誤りなどの分析はほとんどなされていない。「過去に日本が朝鮮を植民地にした」だの、「過酷な支配や残虐と圧政」などのような日本批判(プロパガンダ)を、何の根拠も挙げずに検証なく繰返している。大東亜戦争以前のアジアや朝鮮の歴史に対する著者の無知をさらけ出しているが、原因の一つには当時を正確に記述した英文資料の欠如があるのかもしれない。それにしても、著名なジャーナリストとしてはあまりにも無知というか、不勉強というか、事実を追及するジャーナリストの態度とは異なる。1930年代からのアメリカの政策そのものが、朝鮮を南北に分断し、共産主義中国を生み出した元凶であった(アメリカは中共の母)という事実認識が著者には欠けている。現在のアジアが抱える問題の大半は、ルーズベルト・トルーマンのアメリカによるアジア政策の結果であることをアメリカ人は知る必要がある。
それでも本書は、朝鮮戦争そのものの実態を知る上では有用な書物である。数多くの当事者の話から、戦争そのものを詳細に再現しようと試みている。加えて、朝鮮戦争を取り巻く当時のアメリカや中共(中国)・ソ連政界の動向をも描いていて、興味深い。
なお、Amazonを検索してみれば分かるように、朝鮮戦争についてはさまざまな視点から、数多くの書物が出版されている。