一、 ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンが中国の対日レアアース禁輸措置に関して昨年、ヘラルドトリビューン紙(10月19日付け)に寄稿し、「これはWTO違反であり、世界が合意したルールを守らず人民元を不正にやすく操作する中国は「ならず者経済大国」だ」ときめつけた。もっとも今頃そんなことを言い出すのはちょっと甘いのではないかと言いたくなる。これまで「ならずもの」を放置してきたからである。
二、 その最たるものは、人民元の自己中的な大幅切り下げである。最近人民元を一定の範囲で変動を許し、結果として20%ほど切り上げたのであるが、これはとても国際相場を反映したものではなく、中国政府の不正操作は明らかである。クルーグマンもそれを指摘しているのだろうが、どっこい中国の人民元不当操作は、その程度のものではないのである。次の数字を見てほしい。
80年=100 90年=100
1980年 1ドル=1.53元 100
1990年 1ドル=5.22元 29 100
1995年 1ドル=8.31元 18 56
現在 1ドル=6.60元 23 79
三、 このように、1980年の頃は、人民元は1ドル1.53元という今からでは考えられない高いレートであった。元は中国人民の勤労によって支えられている世界で最も安定した通貨である、などとほらを吹いていたくらいである。しかし、改革開放・市場自由化政策を進めると人民元の過大評価に直面し、何と71%切り下げて、5.22元としたのである。競争相手である、東南アジア諸国等の低賃金国に対する強烈なパンチとなった。当時は中国自体の生産能力がそれほど大きくなかったので大きな問題とはされなかった。しかし、中国は1995年、さらに一方的に37%の切り下げを行い、8.31元とする。これは東南アジア諸国には大打撃となった。1997年から始まるアジア通貨危機は、ヘッジファンドの通貨操作が悪者として非難されたが、実はより根本的な理由は中国のこの大幅元切り下げにあったのである。
四、 80年代からすると18%という超低レートに強引に切り下げるという自己中的「近隣窮乏化」政策によって、輸出の大発展を遂げ、遂に世界一の外貨保有国家になりあがった。これを「中国モデル」などと得意になっているが、なんのことはない「ならず者モデル」にほかならない。元を以前の1.53に戻せとまでは言えないにしても、1990年切り下げ時の5.22までは戻せ、とくらいいうべきではないのか。20%強切り上げるとそうなる。それすら言ってないのがアメリカである。アメリカも、世界も日本も中国に甘すぎたつけを目下払いつつあるという事である。